『Mr.ノーバディ』は2020年製作のアメリカ映画です。アマゾンプライム・ビデオでは、定額見放題の対象作品となっています。(2022年5月現在)
評価は5つ星のうち4.3という高いものでした。高評価の理由は、ツボを抑えた脚本にあります。記事では、そんな『Mr.ノーバディ』について解説します。
脚本家として『Mr.ノーバディ』を見ると、王道の「実は最強」設定をどう料理しているかが学びどころだとわかります。この記事では、見せ場までの距離を短くする工夫、主人公が段階的にカッコよくなっていくエピソードの組み方、そして観客が暴力描写に納得できる「正当な暴力」の作り方について、脚本の書き方の視点で解説します。
※本記事では、脚本の書き方を解説する特性上、多くのネタバレを含みます。気になる方は、事前の映画視聴がおすすめです。
映画『Mr.ノーバディ』
『Mr.ノーバディ』から学ぶ1_
ハズレ無し!鉄板の設定

夜、路線バスが不良少年らに占拠され、乗客の女性が捉えられます。その悪漢に立ち向かい、剛腕でねじ伏せ解決するのが『Mr.ノーバディ』の主人公・ハッチです。ハッチは、一見弱々しい中年男性ですが、実は格闘術の達人でした。
この「実は最強」という設定は、日本でも好まれる設定です。『水戸黄門』『ごくせん』『特命係長 只野仁』など、この設定の作品はたくさんあります。
実際、『Mr.ノーバディ』の視聴コメントの中にも、「ストーリー展開は読めていたけど楽しめた」という書き込みが散見されます。ある程度、予定調和であっても視聴者を引き付ける、鉄板の設定だとわかるでしょう。
見せ場への最短距離
しかし、いくら鉄板設定とはいえ、オリジナリティを出したり、時代性を反映したりすることは必要です。なんとかの一つ覚えでは、視聴者も飽きてしまいます。
その点、『Mr.ノーバディ』からは、できるだけ早く視聴者が見たいシーンへ到達しようという工夫が感じられました。
視聴者が見たいシーンとは、逆転する瞬間です。弱々しかった主人公が最強に転じる瞬間。秘密を明らかにする瞬間。『水戸黄門』でいうところの印籠を披露するシーンです。
このシーンを効果的にするためには「秘密がバレてはいけない」というストレスをためてから、物語終盤のクライマックスで一気に暴露するという展開が一般的でした。
しかし、視聴者を我慢させる時間が長くなってしまうのが難点です。コンテンツがあふれている現代において、あまり焦らしすぎると見るのを止められてしまう危険も生じます。
『Mr.ノーバディ』では、開始15分で無線機相手に種明かしの前フリを済ませてしまい、30分くらいに最初の見せ場としてバスでチンピラ相手に暴れるシーンが組み込まれています。
約90分の作品なので、早い段階での披露だと言えるでしょう。そのおかげで、引き伸ばし感がないスピーディーな展開となっています。
例えば、主人公の正体を最後まで隠し通し、終盤でようやく一度だけ見せ場を作るのはNG例です。視聴者が待ちきれずに離脱してしまう恐れがあります。良い例は、『Mr.ノーバディ』のように序盤で軽く前フリを済ませ、早めに小さな見せ場を用意して、その後さらに大きな見せ場へ繋げていくことです。焦らしすぎず、何度も逆転の瞬間を味わわせるのがポイントです。
『Mr.ノーバディ』から学ぶ2_
徐々にカッコよくなる主人公

『Mr.ノーバディ』では、主人公がカッコよく描かれています。その仕掛けとして徐々に激しさが増すエピソードが組まれているのです。
- (強盗に敗北)※マイナスからスタート
- タトゥーショップで恐れられる
- 強盗へのリベンジ
- バスでの乱闘
- 自宅襲撃を返り討ち
- カーアクション
- 組織に単身殴り込み
- ラスボスとの最終決戦
これらのエピソードは段階的にレベルアップするので単調にならず、視聴者を飽きさせません。
少年漫画のヒーロー
『Mr.ノーバディ』では、人間的な成長描写や葛藤を極力省いています。あくまでもカッコいいところだけを、いいとこ取りしているのが特徴です。
華麗な格闘術、重火器の精緻な描写、BGMに合わせてダンスのようなアクションシーンなどに注目することで、人間臭さのない、少年漫画のヒーローのような存在として描いています。
『Mr.ノーバディ』から学ぶ3_
正当な暴力

『Mr.ノーバディ』の魅力はスカッとするアクションです。どうしようもない悪を倒すから爽快感が生まれます。いわゆる勧善懲悪です。ウルトラマンは怪獣が街を壊すから成敗するのであって、何もしない怪獣とは戦えません。
勧善懲悪という大義名分がなければ、視聴者は主人公の暴力に疑問を抱いてしまい、物語に没頭できません。
有効な仕掛けが復讐です。「やられたらやり返す」は大ヒットしたドラマ『半沢直樹』からも分かる通り、多くの人が正当性を認めます。
主人公のハッチは、平穏な生活を送っていました。しかし、強盗に押し入られたり、チンピラに絡まれたりします。その反撃として、やむを得ず暴力を振るっているのです。
敵役は強く悪いほど良い
主人公が力を行使する理由が敵役です。敵役が弱すぎたり中途半端な性悪だと、ただの弱い者いじめになってしまいます。それでは、視聴者もストレスを解消できません。
主人公をカッコよく強く見せるためにも、敵役は強い必要があります。また、凶悪であるほど、主人公の善が際立つでしょう。
『Mr.ノーバディ』の敵役はマフィアのボス。常軌を逸した行動と仲間も平気で殺害する残忍さを兼ね備えた恐ろしいキャラクターです。まさに最高の敵役だと言って良いでしょう。
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『Mr.ノーバディ』に学ぶ脚本術のよくある質問
Q. 「実は最強」設定はベタすぎて使えませんか?
いいえ、むしろ多くの人に好まれる鉄板の設定です。『水戸黄門』や『半沢直樹』のように、結末が読めていても見たくなる構成は数多くあります。大切なのは設定そのものではなく、見せ場までの距離感やエピソードの積み方です。
Q. 主人公をカッコよく見せるには、どんな順番でエピソードを並べるといいですか?
マイナスからスタートし、少しずつ難易度や規模を上げていくのがおすすめです。『Mr.ノーバディ』では、敗北から始まり、最終的にラスボスとの決戦へと至ります。段階的にレベルアップさせることで、視聴者を飽きさせずに引き込めます。
Q. アクションシーンに説得力を持たせるには、何が必要ですか?
主人公が暴力を振るう「正当な理由」です。やられたから、やり返す。守るために、戦う。こうした大義名分があることで、視聴者は安心して主人公を応援できます。敵役を十分に悪く描くことも、この説得力を支える重要な要素です。
まとめ
『Mr.ノーバディ』は、多くの人が好む「実は強い」系のアクション映画です。この手の作品で重要になる主人公の描き方も無駄がありません。また、視聴者に疑問を抱かせないストーリーの土台も丁寧に描かれています。
胸がスカッとするアクション映画を書きたいと思う方は、『Mr.ノーバディ』を参考にしてみてはいかがでしょうか。
脚本家として改めて振り返ると、鉄板の設定を選んだうえで、見せ場への距離感やエピソードの積み方を工夫することが、観客を飽きさせないコツだとわかります。あなたの脚本でも、最初の見せ場をどこに置くか、どんな順番でエピソードを並べるかを意識してみてください。
脚本の書き方をさらに学べる本
主人公の魅せ方や物語の構成についてさらに深く学びたい方には、以下の書籍もおすすめです。



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