ト書きの例文と書き方のコツ4選
この記事は 2023年10月24日 に更新されました。
脚本のト書きは、監督やカメラマン、俳優など製作者に向けて書く文章です。脚本家の意図を正しく伝えなければ、不本意な演出がされるかもしれません。
ト書きの書き方にはコツがあります。例文と共に解説するのでぜひご一読ください。
目次
ト書きとは
脚本は柱、セリフ、ト書きの三要素で構成される文章です。なかでもト書きは、登場人物の動きや状況を書きます。歌舞伎では、セリフのあとに「ト回る」のように必ず「ト」を書いたことが由来です。
地の文との違い
小説などの地の文と脚本のト書きは、どちらも場面の状況や登場人物の動きを書く点が似ています。しかし、根本的な部分が違うのです。
地の文は一般読者を楽しませるために書きます。そのため情緒的、間接的な文章になることがあります。
一方のト書きは製作者に向けて書く文章です。ト書きでは、脚本家の意図が正しく伝わることが重視されます。そのため、簡潔かつ明快な文章でなければなりません。
文壇の、或る老大家が亡くなって、その告別式の終り頃から、雨が降りはじめた。早春の雨である。
太宰治『グッド・バイ』
上記は太宰治の最後の作品『グッド・バイ』の冒頭の文章です。これを例文としてト書きに変換します。
- 葬儀会場から参列者が出てくる。
- 雨が降り始め、梅を濡らす。
映像として浮かぶ情景をシンプルに書き、製作者に意図を伝える文章がト書きです。ちなみに早春を表す植物として梅を映しています。
ト書きの書き方のコツ1_
箇条書きで書く
ト書きでは、内容を正確に伝えることが重要です。下記のような曖昧なト書きでは製作者が困惑してしまいます。
- 大きくて傷がついたポストの前に停まる車
「大きくて傷がついたポスト」を用意するのか、「大きくて傷がついた車」を用意すればいいのか判断が付きません。
- 英子は涙を流して泣く美衣子の頭をなでる
このト書きの場合、泣くべきはどちらの登場人物か迷ってしまいます。
修飾語や句読点によって、間違った意図が伝わると問題です。手軽に解決するには箇条書きで書くことをおすすめします。
- 傷のついたポスト。
- その前に大きな車が停まる。
- 涙を流している英子。
- 同じように泣いている美衣子の頭をなでる。
この例文のように、箇条書きにすることで文章の意図を明確に伝えられます。
ト書きの書き方のコツ2_
心理描写は映像で伝える
気持ちや感情のような心理描写は、「嬉しい」「悲しい」と書くだけでは不十分です。なぜなら、映像表現の指示が不明瞭だからです。
- 太郎は動揺している
上記例文では、どのような映像を撮影するべきか、読者(製作者)に伝わりません。動揺している様子が映像で伝わるようにト書きを書き直します。
- 太郎、水差しからコップに水を注ぐ。
- 手が震えてこぼしてしまう。
通常ではスムーズに行える行為をあえて失敗させることで動揺している心情を伝えています。このようにト書きによる心理描写は映像で伝えることを意識しましょう。
ト書きの書き方のコツ3_
ざっくりカット
ト書きは書くことより、削る方が難しいかもしれません。
- 休み時間の教室。
- 窓際の席では数人の女子がおしゃべりを楽しんでいる。
- 黒板に書かれた前の授業の板書を消している日直。
- 二つの机をくっつけてスマホゲームをしている数人の男子。
- 自席で早弁をしているふくよかな男子生徒。
- 遅刻して入ってくる佐藤。
ト書きの書き方のコツを掴めていないと、上記例文のように冗長になりがちです。主人公(佐藤)の遅刻を伝えたいのであれば下記のように改善できます。
- 休み時間。騒がしい教室。
- 遅刻してくる佐藤。
ト書きのどの部分にスポットライトを当てるべきか理解することが重要です。たった一行のト書きであっても、存在する意義を考えてください。すると、カットする部分も自然と明確になります。
ト書きの書き方のコツ4_
映像をイメージして書く
ト書きには何でも書けます。雨が降ったり、交通事故が発生したり、天変地異が起こったりしてもOKです。しかし、だからこそト書きにはリアリティが求められます。
- 宇宙人が降り立った
上記のようなト書きにはリアリティがありません。なぜなら脚本家が具体的にシーンをイメージできていないから。なんとなく書いた文章では、読者(製作者)に意図が伝わらないのです。
リアリティを生み出すには、よくよく脳内でイメージしてください。実物が存在する場合は取材も効果的です。
- 夜の闇。
- 林の奥が発光している。
- 木々を掻き分けるように銀色のヒトガタ生命体が現れる。
少なくとも、脚本家の脳内でだけは映像化できなければいけません。イメージが明確であるほどリアルなト書きが書けます。
まとめ
セリフは一言で脚本家のセンスをアピールできます。一方のト書きは、それに比べると地味なパートです。しかし、ト書きが書けていない脚本は製作者から好まれません。
一行のト書きがどのような意図を持って書かれたか、脚本家は読者(製作者)に伝わるように書く必要があります。その際に役立つコツを紹介しました。執筆時の参考としてください。
また、ト書きを書く力をつけるための勉強方法を知りたい方は下記も参照してください。
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