映画「カラスの親指」に学ぶ軽快な掛け合い台詞

映画・ドラマ脚本分析

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カラスの親指 by rule of CROW’s thumb」は、阿部寛と村上ショージという凸凹コンビが主演のコメディ映画です。派手なアクションは少ないですが、軽快なテンポの会話術で冒頭から盛り上げていきます。今回は、映画「カラスの親指 by rule of CROW’s thumb」のファーストシーンを見本に、セリフの使い方に注目したいと思います。

脚本家としてこのファーストシーンを読むと、無駄のない掛け合いだけで状況とキャラクターが伝わる構成に学べる点が多くあります。この記事では、「カラスの親指」のファーストシーンの脚本を紹介し、その掛け合い台詞のテンポやセリフの書き方のポイントを解説します。




映画「カラスの親指」ファーストシーンの脚本

○自動馬券販売機

お金を取り込み、馬券をはき出す機械。

大勢の人でごった返す競馬場。

アナウンス「・・・競馬、第9レース発売中止の5分前です・・・」

竹夫(サラリーマン風の男)が、場に慣れない様子で競馬場パンフレットを読んでいる。初心者丸出し。

その前を常連らしき中年男、テツが通りかかる。

鉄巳「あんた、競馬初めてかい?」

竹夫「ああ、ちょっと遊びで買ってみようかと思っただけで」

鉄巳「まあ、いいけど。ちゃんと新聞くらい買った方がいいよ」

持参の競馬新聞を見せるテツ。

鉄巳「あんた、メインレース買うつもりかい?」

竹夫「ええと、よくわからないんですけど、1レースくらいは買ってみようかなと」

ニヤニヤと馴れ馴れしく近寄るテツ。

鉄巳「あんた、ちょっとお金張るつもりあるの?」

竹夫「え?」

鉄巳「張るつもりがあるなら、良い話、教えてあげるよ」

竹夫「・・・(不審がる)」

鉄巳「いや、別に怪しいものじゃないよ(名刺を取り出し、差し出す)ハシギシクリニックのハシギシと申します」

竹夫「(名刺を受け取り見て)獣医さんですか?」

鉄巳「そう。でも単なる獣医じゃなくて、競馬場に出入りして馬も診察するんだよ。だから色々な情報も入る」

竹夫「・・・」

鉄巳「騎手とか競馬関係者って馬券買えないことになってるだろ? だから代わりに時々こっそり買ってあげたりしてるんだよ」

竹夫「・・・(興味ある風)」

鉄巳「今日のメインも優良な情報が入っているんだよ。一番人気のヨサブロウ。実は下痢気味で最悪なんだよ。二番人気の三番五番、これも長距離輸送でへばってる」

二人の様子を少し離れた場所から、鋭い目つきで見ている男(ユースケ)がいる。

○競馬場・客席

メインレースの決着がついたところ。

竹夫、驚いた様子で馬券と見比べている。

竹夫「・・・(小さくうなずく)」

ユースケ「あんた、とったの?」

竹夫、声の方を見るとユースケがいる。

竹夫「(警戒して)ええ、まあ(と、馬券をしまう)」

近寄るユースケ

ユースケ「あんた、さっき変な男に声かけられてたろ。ひょっとして、あの男に言われたとおりに買った?」

竹夫「・・・」

ユースケ「だとしたらマズイよ。あれはコーチ屋だから」

竹夫「何ですか、それ?」

ユースケ「知らないの? コーチ屋って言ってな、当たる馬教えてやるって近づいてきて適当な馬教えんのよ。それでもし当たったらコーチ料寄越せってあとで金をせしめにくる。まあ、古くさい詐欺だな」

竹夫、馬券をまじまじと見る。

竹夫「いや、でも実際に当たったんです」

ユースケ「そんなもん、ばらばらの馬を言っていけば良いんだよ」

竹夫「・・・(理解できない)」

ユースケ「だからな、10頭の馬が走るんだったら、10人の人間にそれぞれ別の馬を教えておくだろ? そしたら誰か一人は絶対に当たるわけだ」

竹夫「・・・(理解する)」

ユースケ「そしたらあとで、そいつのところへ行けば良い」

竹夫「なるほど」

ユースケ「換金所のあたりで見張ってて、ちょうどあんたがお金を受け取ったところで声かけてくるはずだよ」

竹夫「でも実際に儲けたんですから、仕方ないですね」

ユースケ「馬鹿だなあ。そんなお人好しだと敵はドンドン攻め込んでくるよ。特定の情報を得て、馬券を買うのは犯罪だとかなんとか言ってきて、下手すりゃ強面の人間が出てくるよ。あんた、身元とか吐かされたら骨までしゃぶられるよ」

竹夫「(ショック)・・・」

ユースケ「(ニヤリと)まあいいよ、あんたの当たり馬券、俺が買ってやる。そしたらあんたはココから真っ直ぐ帰れるだろ」

竹夫「はあ(考えて)あ、でもダメだ」

ユースケ「何で? 手数料は1割でいいよ(食い込む)」

竹夫「いや、今日はそもそもうちの社長に言われて、当たり馬券を換金しに来たんですよ。で、時間があるんでちょっと買ってみただけで。このまま帰るわけにはいかないんです」

ユースケ「その社長の当たりってどのくらいなの?」

竹夫「よくわからないんですけど、結構高額だと思うんですよね。四万二千円付いたとか言ってました」

竹夫、馬券を取り出して確認する。

ユースケ「ふーん、それっていつの馬券?」

競馬新聞を広げるユースケ。

竹夫「昨日の8レースですね」

竹夫、頭をボリボリと掻き出す。

馬券と新聞を見比べて確認するユースケ。

高配当馬券が当たっている。

ユースケ「(驚きを隠しつつ)それ、いくら買ってるの?」

竹夫「(馬券確認して)一万円ですね」

ユースケ「(平静を装い新聞をたたむ)そしたら、42万3000円だな」

低く見積もるユースケ。

竹夫「え? そんなに?(気がつかない風)」

ユースケ「馬券の倍率ってさ、千円買っていくらになるかっていうので言うんだよ。四万二千円だから、42倍ってことかな」

満面の笑顔でタケを見るユースケ。

竹夫「そうですか、そんなにあるんですか」

再び頭を掻き出すタケ。

竹夫「うーん、参ったなー」

ユースケ「・・・(緊張して返事を待つ)」

竹夫はまだ頭をかいている。

竹夫の携帯電話が鳴る。

竹夫「(出て)はい。はい。・・・わかりました、すぐに出ます。ええ、では後ほど(切る)」

ユースケ「どうしたの?」

竹夫「社長がもう会社に帰ってきたんですよ。まずいなあ・・・(困り顔)」

ユースケ「わかった。しょうが無い。それも買い取ってやるよ。そっちも手数料もらいたいところだけど、社長さんの馬券って言うんなら仕方ないや。あんたの馬券の分だけでいいから」

竹夫「でも、そんな大金、お持ちなんですか?」

ユースケ「(得意顔で)何言ってるの。競馬場で遊ぶならこれぐらい持ってこないとさ」

セカンドバッグを開けて札束を見せるユースケ。

竹夫「(驚き)・・・」

○同・ロビー

ユースケ「(電話に)そう、10倍も安い倍率言ったら信じやがったんだよ。420万だぜ、420万」

物陰で電話しているユースケ。

ユースケ「(電話に)ああ、向こうは42万渡したら、嬉しそうに帰って行った(ニヤニヤ)まあいいよ、話はあとだ。換金したらすぐに戻る」

○同・高額払戻窓口

ユースケ、ニヤニヤと来る。

騙し取った2つの馬券を眺めてほくそ笑む。

自動払い戻し機に馬券を入れるユースケ。

しかし、エラーアナウンスとともに突き返される。

ユースケ「ん?」

もう一度入れるが、同じく返却されてしまう。

よく見ると馬券の端っこがめくれている。

ユースケ、恐る恐る剥ぐ。

下から別の馬券が現れる。

ユースケ「・・・(信じられない)」

まさか!と、もう一つの馬券も確認するが、同様に剥がれる。

やはり、全く別の馬券が現れる。

○同・外

竹夫「なにやってんだよ、あいつは」

イライラして人を待っている。

鉄巳の声「(コソコソと)タケさん」

竹夫、振り返る。

人なつこい笑顔のテツがいる。

竹夫「(気にくわない)・・・」

一人歩き出すタケ。

そそくさと後を追うテツ。

鉄巳「(気にせず、得意げ)タケさん、どうでした、自分の演技? 結構上達したと思いません?」

竹夫「思わねえなあ」

鉄巳「厳しいなあ、タケさん」

竹夫「それとあんた、電話かけてくるの遅すぎるよ。最初の合図見忘れただろ。集中力がなさ過ぎだよ」

鉄巳「あれ、そうでしたか? 別に上手くいったんだからいいじゃないですか」

竹夫「ぜんぜんダメだ。あの電話ってのはな、敵が作戦を考えられるように、時間を稼いでやるための、大切な電話なんだよ。おかげであいつ思いっきりまごついちゃって、こっちは見て見ぬふりが大変だったんだよ」

鉄巳「なるほどね。でも、自分と組んで、これで三連勝じゃないですか。これからも仲良くやりましょうよ」

竹夫にすがるテツ。

竹夫「よせ、気持ち悪い」

鉄巳「いいじゃないですか、タケさん」

竹夫「べたべたすんなよ」

鉄巳「そういえばタケさん、あの合図かえません? 自然すぎてわかりにくいんですよ」

竹夫「自然だから良いんだろ。それにな、合図で頭をかくって、昔からこの業界の伝統なんだよ」

雑踏に消える二人。

上記は実際に映画「カラスの親指 by rule of CROW’s thumb」を見て脚本に起こした文章です。実際の脚本とは異なります。 また、ユースケ・サンタマリア演じる役名が不明だったため、仮にユースケとしています。

映画「カラスの親指」の脚本的な感想・レビュー・解説

無駄を削ぎ落とした短い台詞の掛け合い

映画「カラスの親指 by rule of CROW’s thumb」の冒頭シーンを見本に見ると、大部分が登場人物同士による会話で構成されています。会話の台詞によって、登場人物の性格や職業が説明され、ストーリーの進行がされていました。こういう会話劇でポイントとなるのは、無駄な台詞を喋らせないことです。できるだけ無駄を削って、短い言葉で的確に要素を伝えなければいけません。そうしないと、観客は会話劇をダラダラしたものだと感じてしまい、観るのにあきてしまいます。

また、台詞を書く時は、俳優のアドリブに期待せず、一言一句、句読点まで気を使って書くことをおすすめします。このように、台詞の掛け合いを書く時には多くの気を使うことになります。

例えば、状況を説明するために「私は今、競馬場で初心者を装って、当たり馬券を持っていることを知られないようにしている」とセリフで全部語らせてしまうのはNG例です。良い例は、上記のファーストシーンのように、「あんた、競馬初めてかい?」「ああ、ちょっと遊びで」といった短いやりとりを積み重ねることで、状況や人物の関係性を自然に伝えることです。説明をセリフに詰め込まず、短い言葉のキャッチボールでテンポを作りましょう。




映画「カラスの親指」の情報

あらすじ(ストーリー)

ひとつ屋根の下に集まった、5人のカラス。だが、この出会いが導く結末をまだ、誰も知らない一。

悲しい過去を背負い、サギ師になったタケ(阿部寛)と、成り行きでコンビを組むことになった新米サギ師、テツ(村上ショージ)。そんな2人の元に、ある日ひょんなことから、美人姉妹(石原さとみ、能年玲奈)と一人のノッポ(小柳友)が転がり込んでくる。3人もまた、不幸な生い立ちを持ち、ギリギリのところで生きてきたのだった。そこから、他人同士のちょっと奇妙な共同生活が始まった。しかしタケが過去に起こしたある事件が彼らを一世一代の大勝負へ導こうとは、まだ、誰も知らない一。社会のどん底で生きてきた5人の、一発逆転劇!?そしてラスト20分で明かされる驚愕の真実一あなたは見破ることができますか?

キャスト

  • 武沢竹夫/阿部寬
  • 入川鉄巳/村上ショージ
  • 河合まひろ/能年玲奈
  • 河合やひろ/石原さとみ
  • 石屋貫太郎/小柳友
  • 質屋の店主/ベンガル
  • 馬々亭の店員/なだぎ武(ザ・プラン9)
  • 豚々亭のマスター/戸次重幸
  • ノガミ/古坂大魔王
  • ヒグチ/鶴見辰吾

スタッフ

  • 監督・脚本 伊藤匡史
  • 攝影/岡雅一
  • 照明/松隈信一
  • 美術/古谷美樹
  • 錄音/鈴木肇
  • 音楽/林祐介

概要

刑事、古代ローマ人・・・そして
今度はいわくつきの「サギ師」に!!
阿部寛主演最新作

この秋、どのシーンも見逃せない、極上のエンタテインメントが誕生。
この映画の(秘密)を知っても、口外しないでください

映画化不可能と言われてきた直木賞作家・道尾秀介の本格ミステリーが待望の映画化!主人公のタケを演じるのは、阿部寛。『麒麟の翼』のシリアスな刑事役から、「テルマエ・ロマエ』のコミカルな古代ローマ人まで、今や日本NO.1の人気・実力を兼ね備えた彼も、サギ師役は初挑戦。対するタケの迷相棒=テツには、本格的映画初出演の、日本NO.1スベリ芸人・村上ショージが大抜擢で、まさかのコンビ結成!そんな強烈な2人を支える、フレッシュな若手陣も負けずに多彩。若手実力派女優としていまや各方面から引っ張りだこの石原さとみ、「カルピス」CMの新キャラクターに起用され、来年のNHKドラマ「あまちゃん」のヒロインにも選ばれた大型新人の能年玲奈、そして本作のために10kgの増量を敢行し、その役者魂を見せた小柳友。爽快なまでにダマされる完璧なラストへと突き進む本作は、あらゆる伏線がちりばめられ、どのシーンも見逃せない!この秋、スリリングな展開にユーモアと人情味がたっぷり盛り込まれた極上のエンタテインメントが誕生する。

キャッチコピー

だまされる確率96%のミステリー・エンターテイメント!

社会のどん底で生きてきた5人の、一発大逆転劇

原作

原作:道尾秀介『カラスの親指byruleofCROWsthumb』(講談社文庫)

主題歌

イメージソング/泉沙世子「スクランブル」(キングレコード)

公式ホームページ

映画「カラスの親指」公式サイト:http://movies.foxjapan.com/crow/index.html
※(IE推奨)

掛け合い台詞の書き方に関するよくある質問

Q. 掛け合い台詞を書くとき、セリフの長さはどのくらいが目安ですか?

「カラスの親指」のファーストシーンのように、1つのセリフは一文から二文程度に収めると、テンポが生まれやすくなります。長い説明的なセリフが続くと、会話のキャッチボール感が失われ、観客が飽きやすくなるので注意しましょう。

Q. アドリブに頼らず一言一句書き込むメリットは何ですか?

句読点や言葉のリズムまで脚本家が設計することで、俳優がそのまま読んでもテンポの良い掛け合いになります。また、伏線やミスリードを仕込む会話劇では、セリフの一語一句が後の展開に関わるため、アドリブに任せるとつじつまが合わなくなるリスクもあります。

Q. この映画のように「だまし」を取り入れる脚本を書くには何に注意すればいいですか?

観客や登場人物に対して、後から振り返ると「ちゃんと伏線があった」と感じられるように、手がかりを自然な会話の中にさりげなく仕込むことが大切です。種明かしのあとに見返したくなるような構成を意識すると、だましのテクニックがより効果的になります。




まとめ:掛け合い台詞は脚本のテンポを作る

脚本家として「カラスの親指」のファーストシーンを見ると、説明的なセリフを避け、短い言葉の掛け合いで状況とキャラクターを伝える技術が詰まっていることがわかります。会話劇を書くときは、無駄な言葉を削り、一言一句にこだわってテンポを作ることを意識してみてください。それだけで、あなたの脚本の会話シーンは格段に読みやすくなるはずです。

脚本の書き方をさらに学べる本

セリフや会話劇の書き方についてさらに深く学びたい方には、以下の書籍もおすすめです。


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