この記事は 2025年8月29日 に更新されました。
脚本には「セリフ」「柱書き」と並んで欠かせない要素が ト書き です。
では「ト書き」とは一体何でしょうか?
ト書きとは、登場人物の動作や感情、場面の状況を記述する部分を指します。
俳優・監督・スタッフが映像をイメージするために欠かせない情報源であり、作品の世界観を伝える重要な役割を担っています。
しかし「ト書きをどう書けばいいの?」「例文が知りたい」という初心者も多いはず。
本記事では、
- ト書きの基本ルール
- 具体的な例文と解説
- 効果的な書き方のコツ
をわかりやすく紹介します。脚本初心者の方でも今日から実践できる内容になっていますので、ぜひ参考にしてください。
目次
ト書きとは?脚本における意味と役割
ト書きの定義(セリフ・柱書きとの違い)
脚本は大きく 「柱書き」「ト書き」「セリフ」 の3要素で構成されます。
その中で ト書き は、登場人物の動作や表情、場面の状況を記述する部分です。
- 柱書き:場所や時間を示す(例:○教室・昼)
- ト書き:登場人物の行動や状況を描写する(例:太郎、窓際に立つ)
- セリフ:人物が話す言葉を示す(例:「おはよう」)
つまり、ト書きは「映像として見えること」を文章にする役割を持っています。
ト書きの役割(映像化の指示・世界観の共有)
ト書きは、監督・俳優・スタッフが脚本をもとに映像を作る際の 共通言語 です。
演技のきっかけ、場面の雰囲気、登場人物の感情を「映像化できる形」で伝える必要があります。
例えば「主人公は悲しい」と書くだけでは伝わりません。
具体的には次のように書き換えます。
❌ 抽象的な表現
主人公は悲しい。
✅ 映像化できる表現
主人公、写真立てを握りしめて泣いている。
このように、観客に見せられる「行動」として描写することがト書きの役割です。
ト書きでよくある誤解(心理描写や抽象表現はNG)
初心者がやりがちな失敗は、心理描写や抽象的な言葉をト書きに入れてしまうことです。
❌ NG例
主人公は心の奥で決意する。
不安な気持ちが広がる。
これらは映像では表現できないため、読者(監督や俳優)に伝わりません。
✅ OK例
主人公、強く拳を握りしめる。
額に汗をにじませ、落ち着かない様子で歩き回る。
このように「目に見える行動」に変換することが大切です。
ト書きの基本ルール【初心者が押さえる5つのポイント】
現在形で書く
脚本は「今まさに起きている映像」を表すため、ト書きは現在形で書くのが原則です。
❌ NG例
太郎はドアを開けた。
✅ OK例
太郎はドアを開ける。
過去形を使うと距離感が生まれ、臨場感が損なわれます。現在形を徹底することで、観客の目の前で出来事が展開しているように感じられます。
主語と述語を明確にする
誰が何をしているのかが不明確だと、演技する側も演出する側も混乱します。
主語と述語をきちんと書くことが重要です。
❌ NG例
涙を流す。
✅ OK例
美衣子、涙を流す。
「誰が行動しているのか」をはっきり示すことで、脚本の指示が明確になります。
具体的な描写をする
抽象的な表現よりも、視覚的にイメージできる言葉を選びましょう。
❌ NG例
太郎は怒っている。
✅ OK例
太郎は眉間にしわを寄せ、机を強く叩く。
観客に伝わるのは「心の中」ではなく「行動」なので、必ず映像で見える表現にします。
必要最低限にとどめる
ト書きを細かく書きすぎると、かえってテンポが悪くなります。
必要な情報だけを残し、余計な描写は削りましょう。
❌ NG例
太郎は青いシャツに黒いズボンを履き、茶色い靴を履いて、髪をかき上げながら、窓の外を見ている。
✅ OK例
太郎、窓の外を見ている。
映像化に不要な情報は思い切って省略することが大切です。
改行・段落で読みやすくする
ひとつのト書きが長すぎると、読み手が疲れてしまいます。
行動ごとに改行することで、脚本全体が格段に読みやすくなります。
❌ NG例
太郎はドアを開ける。部屋に入る。机の上のノートを手に取る。
✅ OK例
太郎はドアを開ける。
部屋に入る。
机の上のノートを手に取る。
シンプルで見やすいト書きは、現場での理解や演技にもつながります。
ト書きの具体例と解説
例1:オリジナル脚本例(感情や動作を描写)
まずはシンプルなオリジナル例を見てみましょう。
○公園・夕方
ベンチに腰かける太郎。
両手で顔を覆い、肩を震わせている。
隣に座った友人の英子が、そっとハンカチを差し出す。
このト書きでは、太郎が「悲しい」という心情を直接書くのではなく、肩を震わせる仕草で感情を表現しています。
また「ハンカチを差し出す」という行動で、登場人物同士の関係性も自然に伝わります。
例2:既存作品からの引用(『千と千尋の神隠し』)
次は映画『千と千尋の神隠し』の冒頭シーンを脚本風に表現したものです。
○走る車・車内
千尋(10歳)、後部座席に座っている。
花束を手にしているが、ぐしゃぐしゃに握りつぶしている。
窓の外を眺めるが、興味なさそうだ。
運転席には父親、助手席には母親が座っている。
このト書きからは、千尋が「引っ越しに不満を抱いている」という心理が、花束を握りつぶす行動で表現されています。
さらに、座席の位置関係を示すことで「家族で車に乗っている状況」が明確になります。
例文から学べるポイントまとめ
上記の例文から学べるト書きのコツは以下のとおりです。
- 心理は行動で表現する(泣いている、握りしめる、肩を震わせる)
- 関係性を自然に描写する(ハンカチを差し出す → 優しさや友情が伝わる)
- 位置関係を明示する(父=運転席、母=助手席)
- 余計な説明を省く(「不満を抱いている」ではなく「花束を握りつぶす」で伝える)
効果的なト書きの書き方テクニック
読み手が映像をイメージできる言葉を選ぶ
ト書きの目的は「映像を思い浮かべさせること」です。
抽象的な言葉ではなく、カメラで撮れる行動に変換しましょう。
❌ NG例
主人公は不安そうだ。
✅ OK例
主人公、指先を落ち着きなくいじる。
視線を何度も左右に泳がせる。
こうすることで、監督や俳優がすぐに演出に反映できます。
情報を詰め込みすぎずテンポを意識する
1つのト書きに多くの情報を詰め込みすぎると、読みにくくなりテンポが悪くなります。
動作や状況ごとに分け、リズムを意識して書きましょう。
❌ NG例
太郎は玄関のドアを開けて入ってきて、靴を脱ぎながら鞄を床に置き、そのままソファに倒れ込む。
✅ OK例
太郎、ドアを開けて入ってくる。
靴を脱ぎ、鞄を床に置く。
そのままソファに倒れ込む。
改行で区切るだけでも、格段に読みやすさが増します。
キャラクターの感情を行動で表現する
感情を直接書くのではなく、行動に置き換えて描写するのが鉄則です。
❌ NG例
英子は寂しい。
✅ OK例
英子、スマホを握りしめたまま画面を見つめる。
返事を待つように、ため息をつく。
観客は行動を通してキャラクターの感情を理解するのです。
セリフとのバランスを取る
セリフとト書きの役割を整理しておくと、無駄な説明を避けられます。
- セリフ:キャラクターが口にする言葉
- ト書き:その時の動作や状況
❌ 悪い例(セリフで全部説明)
太郎「俺は怒っているんだ!」
✅ 良い例(ト書きで補強)
太郎、机を叩きつける。
太郎「ふざけるな!」
このように、セリフとト書きはセットで考えると、自然で迫力あるシーンが作れます。
まとめ|ト書きをマスターして脚本力を上げよう
ト書きは、脚本における 映像化の指示書 です。
セリフや柱書きと並んで、監督・俳優・スタッフ全員が同じイメージを共有するために欠かせない要素となります。
今回紹介したポイントを振り返りましょう。
✅ ト書きの基本まとめ
- ト書きとは?:登場人物の動作や場面を記述する部分
- 基本ルール:現在形・主語明確・具体的・簡潔・改行
- 具体例:行動や仕草で感情を伝える(例:肩を震わせる → 悲しみ)
- 効果的なテクニック:テンポを意識し、セリフと役割を分担する
ト書きをうまく書けるようになると、キャラクターの感情が自然に伝わり、物語の世界観が鮮明に浮かぶ脚本になります。
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