生か死か、もとい性か死か。人間が死に際に選ぶのは性という『アップロード ~デジタルなあの世へようこそ~』をアマゾンプライムビデオで鑑賞。ネタバレ有りのレビューです。
脚本家として観ると、この作品は「使い古されたネタを新しく見せる工夫」の宝庫です。この記事では、『アップロード ~デジタルなあの世へようこそ~』のネタバレを含むレビューを通して、SF設定を脚本に活かすヒントを紹介します。
目次
ベタで新しい
スターウォーズ人気は凄まじいですが同じくらい毛嫌いする人がいるように、SFと聞くだけで拒絶反応を示す人は多いです。『アップロード ~デジタルなあの世へようこそ~』はSFです。でも、専門用語が飛び交うわけでもなく、今どきのITやWEB系ワードが出てくるだけの近未来SF。だから、意外と親しみやすいかもしれません。
登場人物の抱える悩みも現代的。満員電車がきついとか、嫌な上司に目をつけられているとか。SFにする必要ある? と思われそうだけど、AIによる管理社会に窮屈を感じるという「SFのあるあるネタ」も抑えてあります。SF設定はリッチだけど、中身はベタな展開というギャップが売りのドラマだと思います。
SFとブラックジョークでぶった切る
SFというからにはCGにも期待したいところ。宇宙船や、サイコガンは出てきませんが、指がスマホみたいになったり、自動車や自転車が全自動で動いたりと地味なガジェットで押してきます。日常にSF的要素を組み込んでいるので極めてナチュラル。逆に派手なドンパチを期待すると少し物足りないかもしれません。
外見的な目新しさはSFの魅力のひとつ。でも、ジェネレーションギャップやカルチャーギャップのような内面の目新しさも興味深いものです。『アップロード ~デジタルなあの世へようこそ~』の世界観では、死んだら終わりではなく始まり。(プレ)死後の世界で恋をしたり、ご飯を食べたり、トイレに行ったりします。極めつけは自分の葬式の準備を自分ですること。それもスマホで現世の恋人と話しながら。死んでも休まる暇がない様子をシニカルに描いて、現代を風刺します。原案や脚本のグレッグ・ダニエルズはブラックコメディ作品が得意な作家だというので、なるほどという感じです。
デジタルなあの世と現実世界がシームレスにつながる仕掛けは、ストーリーの展開幅を広げる役に立っています。自分の死の真相を自ら解き明かすサスペンス要素もそのひとつ。幽霊になって自分を殺した犯人を突き止める展開は『ゴースト/ニューヨークの幻』以来、山のように作られてきましたが、SF的要素がからむだけで新鮮に見えるから不思議ですね。映画のネタは切り口を変えると新しく見えるという典型といえます。
おバカな主人公に興味がわく
『アップロード ~デジタルなあの世へようこそ~』における死後の世界は、人工的な電脳世界であり、利用者は主にお金持ちのセレブ限定です。地獄の沙汰も金次第ならぬ、天国の沙汰も金次第な環境で、貧乏な男女が出会い恋をする。片や電脳世界の管理者であり、片や死にたてホヤホヤのイケメン。恋愛はハードルが高いほど燃えるのが作劇の基本ですが、生者と死者はその最たるものではないでしょうか。
ただ、いくら設定や展開に目新しさがあっても、登場人物が魅力的でなければ見てられません。その点「次も見てみようかな」と思ったのは病院のシーン。死の淵にある主人公が、成功率の低い手術か電脳世界へのアップロードかという究極の選択を迫られます。ところが主人公にとって気がかりなのはあの世でもセックスできるかどうか。そしてそれが可能だとわかると「たかが永遠のこと」といってアップロードを選択。そんなちょっとおバカな主人公の行く末には興味がわいてきます。
NG例は、主人公に「正しい判断」をさせ続けてしまうことです。究極の選択を、誰もが納得する基準(生存率や倫理)だけで決めさせると、キャラクターとしての個性が消えてしまいます。良い例は、この主人公のように、究極の選択の決め手を「本人にしか分からない優先順位」にすることです。観客は「そんな基準で決めるの!?」と驚きながらも、その人間らしさに惹かれていきます。
SF設定を脚本に活かすよくある質問
Q. SFやファンタジー設定のドラマを脚本に活かすには、何に注目すればいいですか?
『アップロード』のように、SF的な設定そのものより「設定の中で人物がどう悩むか」に注目してみてください。満員電車や上司への不満といった現代的な悩みをSF世界に持ち込むことで、観客が共感しやすくなります。
Q. 主人公の「ちょっとダメな部分」はどこまで描いていいですか?
ストーリーの軸を揺るがさない範囲であれば、思い切って描いてかまいません。この記事で紹介した主人公のように、究極の選択の決め手が俗っぽい欲求であっても、それが行動の一貫した動機になっていれば、観客はキャラクターを面白がってくれます。
Q. 使い古されたネタを使うと、脚本としては評価が下がりますか?
いいえ。ネタは切り口を変えることで新しく見えます。『アップロード』のように、馴染みのあるサスペンスのプロットでも、SFという新しい設定をかけ合わせるだけで新鮮な印象を与えることができます。
まとめ
『アップロード ~デジタルなあの世へようこそ~』は、Amazonプライム・ビデオのオリジナル海外ドラマ。1話30分程度でファースト・シーズンは全10話。早くもシーズン2が更新されるというニュースも出ているので多くのファンを獲得したのでしょう。一見複雑そうでも、意外とクセが強くないドラマなのでさらっと鑑賞できるはず。SF絶対NGという人でなければ、ぜひご覧になってはいかがでしょうか。
脚本家として、『アップロード』から学べるのは、王道のネタもSF設定をかけ合わせるだけで新しく見えるということです。あなたの脚本でも、使い古されたプロットに新しい設定をひとつ加えることで、新鮮さを生み出せないか考えてみてください。
脚本の書き方をさらに学べる本
構成やキャラクター作りについてさらに学びたい方には、以下の書籍もおすすめです。

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