シナリオのト書きを魅力的に書くための3つの簡単な法則

シナリオのト書きは、基本的にどのように書いても良いのですが、自由度が高いため、逆に迷ってしまう場合があります。迷いのあるト書きでは、演出意図が正しく伝わりません。ト書きは、監督やカメラマンや俳優を対象として書きます。そのため、作者であるアナタの意図が伝わらなければ、不本意な演出がされる可能性が出てきます。そうならないためには、ト書きの書き方をキチンと身につけないといけません。もし、身近にシナリオの先生がいるなら、自分が書いた作品を読んでもらい、添削してもらう方法が一番効果的な勉強法です。独学の方は、せめてこれからお伝えする、ト書きの3つの法則を覚えておくと良いでしょう。これは、プロにとってはごく当たり前ですが、初心者が、はまりがちな落とし穴を回避するための法則です。実例をもとに解説していくので、初心者の方でも簡単に理解することが出来ると思います。ぜひ、一度お読みいただき、ト書きを書く力を身につけてください。

◆ト書きの基礎知識(概念やフォーマット)を知る

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複雑なト書きは箇条書きでスッキリの法則

ト書きは正確に内容が伝わるように書かないといけません。なぜなら、制作スタッフが、ト書きをもとに俳優の衣装や小道具などを用意するからです。例えば、次のようなト書きがあったらどうでしょうか?

大きくて傷がついたポストの前に停まる車

ト書きを読んだ大道具さんは、大きくて傷がついたポストを用意するのか、大きくて傷がついた車を用意すればいいのか分かりません。

英子は涙を流して泣く美衣子の頭をなでる

このト書きの場合、目を腫らすメイクをするのは英子役の俳優か、美衣子役の俳優か、それとも二人共か、はっきりしません。このように、修飾語や句読点の使い方によって、意味合いが間違って相手に伝わってしまう事があります。これは美しくきれいな文章を書こうとするほど、陥りやすいミスといえます。キチンとした文章力を身につければ良いのですが、それはとても難しく、時間のかかることです。もっとお手軽な方法として、箇条書きで書く方法があります。

傷のついたポスト。
その前に大きな車が停まる。

涙を流している英子。
同じように泣いている美衣子の頭をなでる。

このように、箇条書きにして、文章を切ってしまえば他の意味を考える余地もありません。さらに、小説家のような文章力も、それほど必要ないでしょう。シナリオのト書きは、意味が伝わるかどうかということが、一番大切なのことなのです。

心理描写は文脈で伝えるの法則

ト書きには、心情のような目に見えないものを書くことは出来ない、とシナリオ入門書には書いてあります。では、どのようにして心理描写をするのか? 具体的な例として下記をご覧下さい。

太郎は動揺している

このト書きの書き方では、太郎役の俳優の表情をアップで写すくらいしか出来ません。上手な俳優であれば、動揺している様子をアドリブで表現するかもしれませんが、本来その演技指示もシナリオライターの仕事です。このような場合は、下記のように動き(=アクション)を指示するト書きにすると良いでしょ

太郎、ボトルの水をコップに注ぐ。
ボトルとグラスが震えてカチカチなる。
あっ、と水をこぼしてしまう太郎。

心理描写は画面に映ることで表現するしかありません。普段は難なく出来る行為を失敗させることで、太郎の心の動揺を伝えます。このように、登場人物の感情はト書きの文脈から伝えるのです。ちなみに、舞台のように演者と観客の距離が離れている場合は、映像作品のような細かな演出は伝わらないので、台詞などで感情を伝えることがあります。

メインストーリー以外ざっくりカットの法則

シナリオは、四百字詰め原稿用紙が1枚で、約一分間の映像を撮影する計算で書きます。映画は120分、テレビドラマなら60分くらいが目安となり、コンクールの応募規定もそれらを意識して、120枚、60枚前後で募集している場合が多いです。ところが、初心者の方がシナリオを書くと、ページ数が足りなくなることがよくあります。原因の一つに、ト書きを書き込み過ぎている場合があります。まずは、下記例をご覧下さい。

休み時間の教室。
窓際の席では数人の女子がおしゃべりを楽しんでいる。
黒板に書かれた前の授業の板書を消している日直。
二つの机をくっつけてスマホゲームをしている数人の男子。
自席で早弁をしているふくよかな男子生徒。
遅刻して入ってくる佐藤。

描写の全てがストーリーに深く関係するなら、上記の書き方で間違いありません。しかし、ただ単に雰囲気を伝えるだけなら無駄な部分が多すぎます。主人公(佐藤)が遅刻して入ってくることを伝えるシーンなら、下記のようになります。

休み時間で騒がしい教室。
遅刻して入ってくる佐藤。

これだけです。どのように騒がしいのかは、監督や現場スタッフが判断して、演出します。シナリオでは、メインストーリーに関わる部分と、必要なら雰囲気が伝わる描写だけを書きます。その他の不要なト書きは、ざっくりカットした方が、逆に伝えたいことが明確になります。

一行のト書きにも意味を持たせる

上記の三つの法則でもお伝えした通り、ト書きとは、書き方のニュアンスを少し変えただけでも、読者(=制作者)に与える影響が大きく変わります。そのため、一行、一言一句にいたるまで、すべての言葉に意味を持たせて、なおかつ伝わるように書かないといけません。と、このように書くと、難しく感じるかもしれませんが、コツさえ身につけてしまえば、大丈夫です。

コツとは、まず映像をイメージしてからト書きを書く、というものです。頭で映像化できれば、自然と三つの法則に則ったト書きが書けるようになるでしょう。逆に、自分でも映像をイメージできないト書きを「なんとなく」書いてはいけません。なぜなら、あなたがイメージできないものは、他人にもイメージ出来ないからです。一行一行、責任を持ってト書きを書くようにしましょう。

丁寧なト書きが良作のスタートライン

シナリオのト書きは、丁寧に書こうとするほど地味で大変な作業が必要になります。一行一行に意図を込めて、何度も書き直すのは、とても根気がいるからです。その割に、すべての読者(=制作者)が、作者の意図を完璧にくみ取ってくれるとは限りません。監督の演出意図や、制作予算の関係によって、渾身のト書きが削られたり、変更されたりすることもあります。

しかし、それでもシナリオライターは、シナリオの隅から隅まで熱意を注いで書かなくてはいけません。ト書きの一行に至るまで、意図を込めて書くことで、その熱意は読者である制作者にも伝わり、素晴らしい化学反応が起こることがあります。結果、出来上がる作品は、あなたの想像を超える良作になるかもしれません。そのためには素晴らしいシナリオが必要なのです。それがスタートラインとなります。

優れたシナリオから駄作が生まれてしまうことはありますが、劣ったシナリオから良作が生まれることはありません。そのため、ト書き一つにも、決して妥協は許されないのです。