脚本を書いていると、途中から何について書いていたかわからなくなり、物語の方向性を見失うことがあります。ラブストーリーを書こうとしていたのに、いつの間にかモンスターと激闘を繰り広げていた、なんてこともあるでしょう。
そんなときには、自分がどのジャンルの脚本を書いていたかという原点に立ち返ることで軌道を修正できます。この記事では、脚本家として作品を読み解くときにも役立つ「脚本家のための映画ジャンル一覧10選」を、それぞれの特徴と代表作とともに紹介します。アメリカの脚本家ブレイク・スナイダーが提唱した本質的なジャンル分けを知っておけば、自分の脚本がどのジャンルに属するのかを見極め、迷ったときの指針として活用できるようになります。
目次
脚本家のための映画ジャンル一覧とは

アメリカの脚本家であるブレイク・スナイダーは、映画のジャンルは10個あると唱えています。古今東西のあらゆる映画は、この10個のジャンルの内、いずれかにあてはまるというのです。
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ここで言うジャンルとは、ラブストーリーやホラー、コメディーなどといった表面的なものではありません。脚本の核となる部分をつかんだ本質的なジャンル分けです。
もちろん、あなたの作品もこの10個のジャンルの中のどれかに含まれるでしょう。もし、どのジャンルに属するか明確にできない場合は注意が必要です。作者が物語の本質を理解していないか、もしくは見失っている可能性があります。
10個のジャンルとは、「家のなかのモンスター」「金の羊毛」「魔法のランプ」「難題に直面した平凡な奴」「人生の節目」「バディとの友情」「なぜやったのか?」「バカの勝利」「組織のなかで」「スーパーヒーロー」です。まずはこの10個のジャンルにどんな作品が当てはまるのかを確認し、その上で自作がどのジャンルに属するのかを確かめてみましょう。

それぞれのジャンルについて下記で詳しく説明します。
脚本家のための映画ジャンル一覧1_
家のなかのモンスター

作品例
ジョーズ
トレマーズ
エイリアン
エクソシスト
危険な情事
パニック・ルーム
ジュラシック・パーク
エルム街の悪夢
13日の金曜日
スクリーム
アラクノフォビア ※悪い例
U.M.A レイク・プラシッド
ディープ・ブルー
特徴
・モンスターが登場する(怪獣・幽霊・人間など)
・生命の危機である
・逃げ場のない空間が舞台
脚本家として注目したいのは「逃げ場のない空間」という設定そのものが緊張感を生み出す装置になっている点です。怪獣やモンスターを使わなくても、「閉ざされた場所」「逃げられない状況」をつくるだけで、このジャンルの緊張感を物語に取り入れることができます。
脚本家のための映画ジャンル一覧2_
金の羊毛

作品例
スター・ウォーズ
オズの魔法使い
大災難P.T.A.
バック・トゥ・ザ・フューチャー
ロード・トリップ
オーシャンズ11
特攻大作戦
荒野の七人
※泥棒モノも含まれる
特徴
・主人公はなにかを求めて旅に出る
・最終的に発見するのは当初の目的とは別モノ
・ロードムービーと相性がいい
・主人公は旅の途中での出会いや経験を通して成長する
「金の羊毛」を脚本に活かすコツは、旅の目的と、最後に手にするものをずらすことです。最初に掲げた目的がそのまま手に入る結末では、物語に深みが生まれません。旅の過程で主人公が何を学び、何を本当に欲していたのかが変化していく様子を描きましょう。
脚本家のための映画ジャンル一覧3_
魔法のランプ

作品例
ライアーライアー
ブルース・オールマイティ
ラブ・ポーション No.9
フォーチュン・クッキー
フラバー
ブランク・チェック/100万ドル大作戦
ホーム・アローン
フリーキー・フライデー
オール・オブ・ミー/突然半身が女に!
恋はデジャ・ブ
特徴
・冒頭で奇跡によって夢がかなう、もしくは天罰が下る(どちらでも可)
・奇跡が起きるきっかけに決まりはない(魔法、科学、ファンタジーなどなんでもOK)
・最後には本当に必要なモノを手に入れる
このジャンルのポイントは、「願いが叶うこと」自体は物語の入口にすぎないという点です。願いが叶った後に主人公が何を失い、何に気づくのかを描くことで、コメディでありながら成長物語としての説得力が生まれます。
脚本家のための映画ジャンル一覧4_
難題に直面した平凡な奴

作品例
ブレーキ・ダウン
ダイ・ハード
タイタニック
シンドラーのリスト
ターミネーター
特徴
・主人公は(観客と同じ)普通の人間である
・主人公がとんでもない状況に巻き込まれる
・主人公は自らの個性や知力を駆使して敵に立ち向かう
観客が主人公に共感しやすいのが最大の強みです。脚本家としては、主人公の「普通さ」を序盤でしっかり描くことが重要になります。普通の生活が描かれているからこそ、非常事態に巻き込まれたときの落差が際立ち、観客は「自分だったら」と物語に引き込まれます。
脚本家のための映画ジャンル一覧5_
人生の節目

作品例
テン
普通の人々
酒とバラの日々
特徴
・人生の節目ともいうべき事態に直面する
・主人公の変化を重点的に描く
・敵(災難や運命など)の正体を見極め、最終的には受け入れることで勝利する
「人生の節目」では、派手な事件は起きません。それでも物語として成立するのは、主人公の内面の変化そのものがクライマックスになるからです。地味なテーマを扱う脚本を書くときは、このジャンルの構成を参考にすると良いでしょう。
脚本家のための映画ジャンル一覧6_
バディとの友情

作品例
ジム・キャリーはMr.ダマー
レインマン
明日に向かって撃て!
ウェインズ・ワールド
48時間
テルマ&ルイーズ
ファインディング・ニモ
赤ちゃん教育
女性No.1
トゥー・ウィークス・ノーティス
10日間で男を上手にフル方法
リーサル・ウェポン
E.T.
※ラブストーリーも含まれる
特徴
・基本的な流れは以下の通り
1)最初、バディはお互いを嫌っている
2)やがて、お互いの存在が必要だと気づく
3)しかし、相手に依存することを拒絶する
4)一度はケンカ別れするが、仲良くするしかないと悟る
・二人(バディ)の内、変化するほうが主人公である
ラブストーリーもこのジャンルに含まれる点は意外に思われるかもしれません。「対立から始まる関係性が、最終的にお互いを必要とする関係に変わる」という構造は、恋愛関係にもそのまま当てはまります。二人のうち、どちらが「変化する側」の主人公なのかを意識して書くと、関係性の描写に芯が通ります。
脚本家のための映画ジャンル一覧7_
なぜやったのか?

作品例
チャイナタウン
チャイナ・シンドローム
JFK
インサイダー
市民ケーン
大統領の陰謀
ミスティック・リバー
特徴
・人間の心の深部へ観客を誘う
・人物よりも事件や現象に注目する
・主人公の変化は描かなくても良い(人物の変化を描くと「金の羊毛」となる)
・社会派、事件モノ、推理モノに多いジャンル
主人公の成長を描かなくてもよい、という点が他のジャンルと大きく異なります。脚本家として社会派・推理モノを書く場合は、「主人公がどう変わるか」より「観客が何を知り、何を考えるか」を軸に構成すると、このジャンルらしい緊張感が出せます。
脚本家のための映画ジャンル一覧8_
バカの勝利

作品例
チャンス
フォレスト・ガンプ/一期一会
デーヴ
天国から落ちた男
アマデウス
チャーリー
レナードの朝
※チャップリン、キートン、ロイド作品なども含まれる
特徴
・主人公は、一見すると負け犬に見える。周囲から見下されている。
・敵は、大きな権力を持つ悪者(=体制側)
・バカ(主人公)が、敵(体制側)をおちょくって批判する
・バカ(主人公)には味方が存在する
「バカの勝利」は、権力構造に対する痛快なカウンターを描けるジャンルです。主人公自身に悪意がないからこそ、体制側を批判しても嫌味になりません。主人公を「無自覚なまま正しいことをする人物」として描けるかどうかが、このジャンルの成否を分けます。
脚本家のための映画ジャンル一覧9_
組織のなかで

作品例
アニマルハウス
M★A★S★H★マッシュ
カッコーの巣の上で
アメリカン・ビューティー
ゴッドファーザー
9時から5時まで
特徴
・多数派 vs 少数派の構図
・集団、組織、施設、家族などについてのストーリー
・主人公は自分が属する組織に誇りを感じる一方、オリジナリティが失われることに葛藤する
・新しく組織に加入した新人が主人公になることが多い
学校・会社・家族など、誰もが経験する「組織」を舞台にできる点がこのジャンルの強みです。主人公が組織への誇りと、個性を失う不安という二つの感情の間で揺れる様子を描くことで、観客は自分自身の所属する集団に重ねて見ることができます。
脚本家のための映画ジャンル一覧10_
スーパーヒーロー

作品例
スーパーマン
バットマン
グラディエーター
ビューティフル・マインド
ガリバー旅行記
特徴
・「難題に直面した平凡な奴」の正反対
・主人公は、超人的な力を持つ人物
・平凡な状況で、悩んだり葛藤したりする
・誤解を受けたり周囲から理解されなかったり、観客から共感を得なければならない
能力は超人的でも、悩みは人間的——というギャップがこのジャンルの肝です。「特別な力を持つこと」自体は孤独や誤解を生む要因として描くことで、観客はヒーローの強さだけでなく、その人間性にも共感できるようになります。
映画ジャンル一覧に関するよくある質問
Q. ここで紹介されている「ジャンル」は、一般的なジャンル分けと何が違いますか?
ホラー・コメディ・アクションといった一般的なジャンルは、映画の「見た目」や「雰囲気」による分類です。一方、ブレイク・スナイダーが提唱するこの10ジャンルは、物語の「構造」による分類です。たとえばホラー映画でも構造的には「家のなかのモンスター」と「なぜやったのか?」のどちらにも分類できることがあり、表面的なジャンルとは別の視点で物語を分析できます。
Q. 自分の脚本がどのジャンルにも当てはまらない場合はどうすればいいですか?
どのジャンルにも当てはまらないと感じる場合、物語の核となる対立構造や主人公の目的が曖昧になっている可能性があります。一度、主人公が「何を求めて」「何と対立し」「最終的にどう変化するのか」を整理し、10ジャンルの特徴と見比べてみましょう。複数のジャンルの要素が混在している場合は、どちらを物語の主軸にするかを決めることで方向性が定まります。
Q. 1つの脚本に複数のジャンルの要素を混ぜてもいいですか?
問題ありません。実際に多くの作品が複数のジャンルの要素を組み合わせています。たとえば「バディとの友情」と「難題に直面した平凡な奴」を組み合わせれば、対立する二人が非常事態に立ち向かうバディアクションになります。大切なのは、どのジャンルの構造を「物語の軸」として据えるかを脚本家自身が把握しておくことです。
まとめ
本質的なジャンルを理解すると、自分の脚本がどのジャンルに属するかわかります。同ジャンルの名作を見ることで勉強にもなるでしょう。
過去の名作から王道パターンを知り、必要な要素が何かを理解してください。もし執筆で迷ったとしても、確かな指針となるはずです。脚本家として作品を分析するときも、この10ジャンルのどれに当てはまるかを考える習慣をつけておくと、物語の本質を見失いにくくなります。


コメント
古い映画ですが、ジャン・ルノアールの『大いなる幻影』をみました。記事で紹介するジャンル分けで言えば、「組織のなかで」に当てはまるでしょうか。
・多数派 vs 少数派の構図
→第一次大戦におけるドイツ軍と囚われた捕虜の対立構図
・集団、組織、施設、家族などについてのストーリー
→捕虜収容所に収監された将校たちについてのストーリー
『グーニーズ』(1985年)は「金の羊毛」ジャンルの映画かと思われます。
・主人公はなにかを求めて旅に出る
→立ち退きを回避するための大金
・最終的に発見するのは当初の目的とは別モノ
→友情
・主人公は旅の途中での出会いや経験を通して成長する
→チャンクとスロースの交流が象徴的ですね
韓国映画、マ・ドンソク主演の『犯罪都市 THE ROUNDUP』(2022年)はどのジャンルに当てはまるか。
「なぜやったのか?」が一番近い気がする。
・人間の心の深部へ観客を誘う
→残酷で残虐な犯罪行為を行う犯人が象徴的。映画のキャッチである「最強VS.最狂」の最狂にスポットライトを当てている。
・人物よりも事件や現象に注目する
→外国で犯罪に巻き込まれる渡航者が後を絶たないという社会問題に注目している。
・主人公の変化は描かなくても良い(人物の変化を描くと「金の羊毛」となる)
→主人公のマ・ドンソクは暴力的で腕っぷしが強い主人公だが正義感にあふれている。このキャラクター設定は、最初からラストまで変化しない。
・社会派、事件モノ、推理モノに多いジャンル
→国際犯罪を題材にした事件モノである。
チャールズ・チャップリンの『担え銃』(になえつつ:1918年)、バスター・キートンの『キートンの大列車追跡』(1926年)のジャンルはどちらも「バカの勝利」。